総需要

3.1

 

金融政策は利子率の変化を通じて需要側に影響する。マクロ経済学では総需要について家計・企業・政府・海外の四部門に分け、それぞれの重要を考える。家計の需要は、消費と住宅その他の耐久財を購入する投資に分けられる。企業の需要は、設備・在庫などの投資である。政府の需要は、公共投資などの公的な需要を財政支出とする。海外の需要は、日本国内を基準に考えると、輸出のことで、海外の国を基軸に考えると日本国の輸入は供給である。輸出から輸入を引いたものを貿易収支と呼ぶ。貿易収支は純輸出とも呼ばれる。

以上の説明から

 

総需要=消費+投資+財政支出+純輸出

 

 

という式ができる。

この式が国内総生産または名目GDPと同じになる。

銀行が政策ツールを操作することによって、利子率が変化すると考えられる。金融市場は、現在と将来の資産を使用しての購買力が取引される場で、利子率は金融取引の価格である。

 利子率の上昇は、現在利用する資産を高価にするということである。利子率が上昇すると、支出が高価になるので抑えられる。

逆に利子率が低下すると、支出が安価になり、支出が促進される。しかし、家計部門の場合は、利子率の影響より恒常所得の変化による影響が強いと考えられる。恒常所得とは長期的な平均所得のことである。

一方、投資は、利子率の変化に大きく反応する傾向がある。長期の利子率は、海外の利子率の影響も強く受ける。しかし、短期の利子率は、早く容易に表れる。金融緩和により短期利子率が低下すれば、在庫のような短期投資が増えるが、設備投資などの長期投資でもそれを前倒しにして早めに実行する動きが出てくる。

経済においては、更新投資という、工場・機械・装置などの摩耗・老朽化のために新しく設備を整えることは常に起こっている。

例えば、ある企業が数か月後に計画していた投資を前倒しで実行することや、また別の企業が予定していた投資を前倒しにするといった意思決定がおこると予測される。

利子率が下がるほど、支出が前倒しに実行され、総需要が増えれば、生産が拡大し始め、経済が軌道に乗ったと人々が革新すれば、生産に必要な機械などの資産材の需要が増え、投資が増加し、恒常所得も増加して消費も増加すると考えられる。

財政支出は、政治的プロセスを経て決められることなので、利子率とは無関係だと考えられる。輸出は海外の景気に、輸入は国内の景気に左右されるが、どちらも、為替レートの影響を受ける。円安などの外貨高になると、国内からの輸出の価格競争力が強くなり、長期的には、純輸出が増える。

為替レートは、海外・国内の利子率の差に左右される。国内の利子率が海外の利子率より低いと、相対的に高い海外での資金運用が好まれ、国内の資金運用が減る。

以上により、金融政策で国内の利子率を変化させると為替レートに影響を与えることになり、純輸出に影響する。

しかし、為替レートの変動は将来に対する要因が、大きく影響を与えるので、短期の利子率より、長期の利子率のほうに強い影響が出ると考えられる。

長期の利子率には金融政策での影響が少ないとすると、為替レートに与える影響は少ないと考えられる。政策金利とマネタリー・ベースを操作して利子率を変化させ、総需要を増やそうとしなくても、長期的に物価が変化し、市場のメカニズムにより、自然産出量になると考えられる。しかし、市場メカニズムが速く動かない場合は、総重要を増やすために金融政策は必要であると考える。しかし、名目利子率の0下限に達しても、なお、何らかの理由で総需要が不足していると、市場のメカニズムでも金融政策でも総需要を増やすことができず、日本が経験している長期間の不況になっていると考えられる。

その状態の脱却のために、総需要の増加が必要だとしてもそれ以上利子率が下げられなければ、投資も先送りにされる。

つまり、利子率のゼロ加減によって政策金利での誘導や市場での買いオペレーションまたは、マネタリー・ベースの増加による、ポートフォリオ・リバランス効果も利子率が下がる余地がない。

利子率を通じての金融政策以外に考えられるのは、銀行の貸し出しの増減による効果がある。金融政策が銀行間の貸し出しに影響を与える過程は、信用創造によるマネー・サプライへの影響と関係する。