通貨量コントロール

4.1

 

通貨量のコントロールについて、決済の手段として機能するものを通貨とし、銀行の預金と銀行以外が保有する現金とする。通貨量=マネー・サプライ=マネー・ストックは政府が発行する現金の残高から銀行が保有している現金残高を引いたものと銀行が発行する決済性預金の残高を足したものとなる。

マネー・サプライの変動そのものはデフレと関係がないと考えられる。また、ハイパー・インフレーションの進行を防止するためには通貨量の規制が必要になる。

ここでは、信用創造による預金通貨の変化は銀行の貸し出しの変化と同じとする。

民間の保有する現金の総額は銀行以外の民間が保有する現金の総額に銀行が保有する現金の総額を足したものになる。

通貨量は銀行が発行する預金通貨の総額と銀行以外の民間が保有する現金の総額を足したものになる。

マネタリー・ベースの額は銀行が中央銀行に預金した額と民間が保有する現金の総額を足したもの、または、銀行が中央銀行に預金した額と銀行以外の民間が保有する現金の総額と銀行が保有する現金総額を足したものになる。

通貨量とマネタリー・ベースの比率を信用乗数という。信用乗数は通貨量をマネタリー・ベースで割ったもの。または、銀行以外の民間が保有する現金の総額と銀行が発行する預金通貨の総額を足して銀行が中央銀行に預金した額と民間保有している現金の総額を足して割ったものである。

以上により、

 

通貨量=信用乗数×マネタリー・ベースの額

 

という式が成り立つ。

中央銀行がマネタリー・ベースの供給を増やすと通貨量も比例して増加する関係にあるように思えるが、信用乗数の変動を考える必要がある。

 

例えば、中央銀行が銀行間市場で民間銀行に資金を供給する場合や、民間の銀行から国債を買い取るなどで、マネタリー・ベースを増やすと、民間銀行の中央銀行の預金が増えるが、中央銀行への預金は通貨量の構成に含まれないので通貨量は増えていない。

民間銀行が中央銀行の貸し出し預金を増やしてマネタリー・ベースを増やしても、

中央銀行の貸し出し預金と民間銀行の預金の比率=

中央銀行の貸し出し預金÷民間銀行の預金

の式により、信用乗数の低下に相殺される。

以上の中央銀行の預金と銀行の預金の比率は重要である。中央銀行の預金と銀行の預金の比率は銀行以外の民間が保有する現金の総額から銀行の預金を割ったものである。

銀行預金に対する銀行以外の保有する現金の総額の比率は銀行が保有する現金の総額を銀行の預金の総額で割ったものになる。

中央銀行の預金と銀行の預金比率と、銀行以外の保有する現金の総額の比率から、預金の総額を取り除くと、

 

信用乗数

(1+銀行が発行する預金通貨の総額と銀行以外の民間が保有する現金通貨の総額の比率)÷(銀行が発行する預金通貨の総額と銀行以外の民間が保有する現金の総額の比率+中央銀行の預金と銀行の預金の比率+銀行預金と銀行が保有する現金の総額の比率)

 

という式になる。

以上の式により、信用乗数が低下する。

銀行以外が保有する現金の変化による影響は

信用乗数

(銀行が発行する預金通貨の総額+銀行以外の民間が保有する現金の総額)÷マネタリー・ベースの額=

(中央銀行預金÷中央銀行の預金と銀行が発行する預金通貨の総額の比率)÷マネタリー・ベース+(銀行以外の民間が保有する現金の総額÷マネタリー・ベース)=

(マネタリー・ベース-民間が保有する現金の総額)÷(中央銀行の預金と銀行預金の比率×マネタリー・ベース)+(銀行以外の民間が保有する現金の総額)÷(マネタリー・ベース)=

(1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率)-[(1-中央銀行の預金と銀行預金の比率)÷(中央銀行の預金と銀行預金の比率)]×(民間保有の現金÷マネタリー・ベース)-(1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率)×(銀行の保有する現金の総額÷マネタリー・ベース)

という式になる。

中央銀行預金と銀行の預金の比率が一定で1より小さい時、マネタリー・ベースと銀行以外の民間が保有する現金の総額の比率が増え、信用乗数は低下することになる。

ここでの中央銀行預金と預金通貨の比率が一定とは、中央銀行の預金が変化したとき、比例して、銀行の預金が変化することに注意する必要がある。

 

通貨量=

信用乗数×マネタリー・ベース=1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率×マネタリー・ベース-(1-中央銀行の預金と銀行預金の比率)×銀行以外の民間が保有する現金の総額

-(1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率×銀行が保有する現金の総額)

 

となるので、通貨量は銀行以外の民間が保有する現金の総額の増加によって減少する。これは現金の需要が増えたことにより、民間銀行が中央銀行の預金を取り崩すことで対応すれば、中央銀行に預金と銀行預金の比率が一定活1より小さければ、預金残高がそれ以上減少するため。

つまり、マネタリー・ベースが一定で中央銀行の預金と銀行預金の比率も一定であれば、預金に対する銀行以外の民間が保有する現金の総額の比率が上昇したとき、中央銀行の預金が不足することになり預金が減少することで、通貨量は減少する。

銀行以外の民間が保有する現金の総額が増加し、現金の発行が増える時は、民間銀行から預金が引き出されると考えられる。

しかし、銀行預金が引き出されて現金化されるときは、銀行以外の民間が保有する現金の増加と銀行預金の減少が同じ量になるので、通貨量は変わらない。逆に、民間銀行が現金を預けたことによって、預金通貨が発行されたとしても、これまでの式から、銀行預金は通貨の構成に含まれていないので、銀行以外の民間が保有する現金の総額の減少に銀行預金の増加が相殺され、通貨量は変わらない。

一方、預金が引き出されるのに対して、銀行が手元の現金で足りない場合、中央銀行の預金から引き出して対応する。

以上のように、中央銀行の預金と現金は代替えされることが多いため、マネタリー・ベースは中央銀行の預金と現金を合わせたものになる。中央銀行政策金利での誘導などでマネタリー・ベースの供給が増えることで、中央銀行の預金が増えることにより、より多い現金が引き出されても耐えられるようになり、預金の発行も増やすことができると考えられる。

また、現金である日本銀行券が発行されるのは中央銀行の預金から引き出されるときである。通貨量を増やすには銀行が預金の発行を増やす必要がある。

銀行が企業に貸出する場合、現金を渡すのではなく、貸出先の預金口座の残高を増加させる。銀行に利子を払ってまで借入する企業などは、使う目的があると考えられるので、増えた残高をそのままにするとは考えられない。

例えば、現金を他の口座に振り込む、預金がどこかで引き出される可能性がある。このように通貨量は増加し、中央銀行の預金と銀行預金の比率も変化すると考えられる。

以上の説明により、信用創造とは銀行が預金を貸し出すことであるが、銀行は信用創造により通貨発行益を得ることになる。