長期利子率への波及

  1. 3 長期利子率への波及

 

二つ目に政策金利が影響を与えると考えられることは、長期での資金の貸し借りで発生する利子率への影響で、政策金利自体は、短期の利子率であるが、金利の期間構造または、イールド・カーブといわれるものに基づく効果により、中期の利子率に波及する。

例えば、政策金利で貸し借りを行う取引での期間を単位期間とし、長期の債券は期限内に確実に返されるとするとし、その際に、銀行間市場では貸した資金が必ず返されるとする。

 

(長期債券の利回り)×(1+年数期間の利回り)年数期間

               =

(政策金利で変更する銀行間市場での運用利回り)(1+現在の金利水準)(1+変更される金利水準)×・・・・・・・・

 

の式が成り立たなければ、長期債券か銀行間市場での運用のどちらか一方のメリットが大きくなるのでメリットが少ないほうは不利になり、需要がなくなってしまう。

長期債券が不利になると売れるようにこれから発行する債券の利回りを上げる。銀行間市場での資金の貸し出しが不利になると、借りた現金を債券に変えようとするが、債券を借りるために現金を借りようとすると、現金の需要が増え銀行間市場の利子率を上げることにより、銀行間市場の利回りのほうが大きくなる。

このようにイールド・カーブは異なる期間を対象にした金融資産でメリットが大きいほうを選ぶときに生じる債券の利回りの変化のこと。長期と短期の債券の利回りの差のことをターム・プレミアムと呼ぶ。

例えば、長期債券と政策金利のターム・プレミアムは、

 

長期債券での利回り-現在の政策金利での貸し出しでの利回り

 

という式になる、金融引き締めで政策金利が高くなると、長期債券の利回りでのリターンが増え、正数となり、金融緩和では、債券での投資リターンが減るので相対的に現金借り入れの利回りを大きくするので負数になる。

実際のターム・プレミアムでの不確実性を考えると、次のようになる。

政策金利はいつどのくらい変えられるのかわからないのでリターンを予測する式は、

 

(1+現在の金利水準)×(1+変更を予測した金利水準)×・・・・・・・・・

 

となる。

政策金利の不確実性のリスクを回避する傾向にある場合、債券リターンは多少低くなり、ターム・プレミアムを押し下げる要因になる。

一方、債券で長期的に運用するとき、満期償還ではなく、途中で換金するかもしれないので、その場合、売ることができる価格という不確実性が生まれる。リスクが高い場合や、リターンが少ないなど、途中で換金する確率が高くなる状態だと、債券投資より銀行間市場での借り入れでの運用が好まれ、債券は不利になった分、利回りを上乗せするが、その上乗せされた利回りを流動性プレミアムと呼び、流動性プレミアムはマネタリー・ベースや流動性の高い通貨などの資産の供給が増えると低下し、高くなった流動性プレミアムは、長期債券と政策金利のターム・プレミアムを押し上げる。

以上のように、政策金利での誘導操作は、ポートフォリオ・リバランス効果と、長期の利子率に影響を与え、長期利子率の変化は、金融機関が政策金利をどのくらいになるか予測することに依存する。

この問題は、長期的に政策金利を低くすることを約束することで長期金利を低下させ解決される。このことは、時間軸効果または、フォーワード・ガイダンスと称される。

中央銀行が、金融機関の政策金利に対しての予想を直接コントロールすることはできないと考えられるので、日本銀行のコール無担保翌日物のような超短期の政策金利では、長期的な利子率ほど不確実性が大きくなる。

中央銀行による金融政策には、公開市場操作がある。公開市場とは、制約なく誰もが自由に参加できる市場で、日本では上場株式の取引くらいしかないので、公開市場の操作は、ほとんど行われていない。

その代わりに、中央銀行は金融機関が持つ、国債などの証券を買い取ることが盛んに行われる。証券を中央銀行が買い取った場合、証券会社の供給が減少したことによって価格が上昇し、利子率が下がる効果がある。その証券の市場などの利子率が下がると、市場参加者の判断によって、他の金融資産の利子率に影響が出る。

その際、証券の買い取りに、マネタリー・ベース供給が増えるのでポートフォリオ・リバランス効果も生じる。ポートフォリオ・リバランス効果が最もあらわれるのは銀行間市場での貸し借りである。

以上の説明により金融緩和では、中央銀行政策金利を低くして誘導するか、金融資産を買い取りその市場での利子率を下げ誘導されたことによりさらに、マネテリー・ベースの供給が増えることによって、ポートフォリオ・リバランス効果を生み出し、経済全体の利子率を低下させると考えられる。

逆に、金融引き締めでは、政策金利の高めの誘導や金融資産の売り付けを行うことにより、利子率が上昇し、利子率の上昇が金融資産に影響を与え、マネタリー・ベースの供給が減ることによって、ポートフォリオ・リバランス効果も経済全体の利子率を上昇させる。

また、証券市場では、短期間のものほど金融政策の効果が大きいと考えられる。自然産出量は資本・労働量・労働市場などの供給する側の要因で少なくとも短期的には金融政策が影響を及ぼすと考えられる。