通貨発行益

  1. 2 通貨発行益
  2.  

通貨量に注意が払われるのは、ハイパー・インフレーションに先だって通貨量の膨張が起こっているため。通貨が必要以上に発行されるのは、政府が通貨発行益を得ようと考えるためだと考えられる。政府や中央銀行の限らず民間の銀行でも、通貨発行益を得ることはできる。 

このため、預金通貨の発行には一定の制限が必要である。この一定の制限としての機能が準備預金制度といわれるもので、部分準備制度とも呼ばれる。準備預金制度とは、銀行の信用創造のための預金の発行を制限するため、銀行の預金に対して、一定割合以上の準備預金というものを義務付ける。

預金を発行するときに義務付けられる中央銀行の預金は、法定準備または要求準備と呼ばれ、預金の残高に対する法定準備額の比率は法定準備率と呼ばれる。これにより、預金の発行に対して保有しなければならない中央銀行の預金の最低限度額が設定される。

 

中央銀行の預金≧法定準備×銀行預金

 

の式になる必要がある。銀行に課せられた制約は中央銀行の預金と銀行預金の比率≧法定準備率と表すこともできる。

 

義務付けられる信用乗数

=(1+銀行預金と銀行以外の民間が保有する現金)÷(銀行準備預金と銀行以外の民間が保有する現金+法定準備率+銀行預金と銀行の保有する現金)

 

という式になる。この場合、通貨量には、

 

通貨量=信用乗数×マネタリー・ベース≦義務付けられる信用乗数×マネタリー・ベース

 

の式のように上限が課せられる。マネタリー・ベース供給を制限すると、供給量の上限が決まる。

以上の説明の信用乗数や義務付けられた信用乗数は、銀行以外の民間が保有する現金の量によって変わることに注意しなければならない。

具体的には、銀行預金と銀行の保有する現金の比率、中央銀行の預金と銀行預金の比率、法定準備率が1より小さい限り、信用乗数や制限される信用乗数は銀行預金と銀行以外の民間が保有する現金の比率が増加すると減少する。

これは、預金が現金化されると、銀行預金を増やすための法定準備にできるマネタリー・ベースの量が減少することになる。

中央銀行の預金と銀行預金の比率が法定準備率に近いほど、銀行が法定準備額を上回る日銀当座預金保有していないことになり、銀行が背局的に信用創造していることになる。

通貨量コントロール

4.1

 

通貨量のコントロールについて、決済の手段として機能するものを通貨とし、銀行の預金と銀行以外が保有する現金とする。通貨量=マネー・サプライ=マネー・ストックは政府が発行する現金の残高から銀行が保有している現金残高を引いたものと銀行が発行する決済性預金の残高を足したものとなる。

マネー・サプライの変動そのものはデフレと関係がないと考えられる。また、ハイパー・インフレーションの進行を防止するためには通貨量の規制が必要になる。

ここでは、信用創造による預金通貨の変化は銀行の貸し出しの変化と同じとする。

民間の保有する現金の総額は銀行以外の民間が保有する現金の総額に銀行が保有する現金の総額を足したものになる。

通貨量は銀行が発行する預金通貨の総額と銀行以外の民間が保有する現金の総額を足したものになる。

マネタリー・ベースの額は銀行が中央銀行に預金した額と民間が保有する現金の総額を足したもの、または、銀行が中央銀行に預金した額と銀行以外の民間が保有する現金の総額と銀行が保有する現金総額を足したものになる。

通貨量とマネタリー・ベースの比率を信用乗数という。信用乗数は通貨量をマネタリー・ベースで割ったもの。または、銀行以外の民間が保有する現金の総額と銀行が発行する預金通貨の総額を足して銀行が中央銀行に預金した額と民間保有している現金の総額を足して割ったものである。

以上により、

 

通貨量=信用乗数×マネタリー・ベースの額

 

という式が成り立つ。

中央銀行がマネタリー・ベースの供給を増やすと通貨量も比例して増加する関係にあるように思えるが、信用乗数の変動を考える必要がある。

 

例えば、中央銀行が銀行間市場で民間銀行に資金を供給する場合や、民間の銀行から国債を買い取るなどで、マネタリー・ベースを増やすと、民間銀行の中央銀行の預金が増えるが、中央銀行への預金は通貨量の構成に含まれないので通貨量は増えていない。

民間銀行が中央銀行の貸し出し預金を増やしてマネタリー・ベースを増やしても、

中央銀行の貸し出し預金と民間銀行の預金の比率=

中央銀行の貸し出し預金÷民間銀行の預金

の式により、信用乗数の低下に相殺される。

以上の中央銀行の預金と銀行の預金の比率は重要である。中央銀行の預金と銀行の預金の比率は銀行以外の民間が保有する現金の総額から銀行の預金を割ったものである。

銀行預金に対する銀行以外の保有する現金の総額の比率は銀行が保有する現金の総額を銀行の預金の総額で割ったものになる。

中央銀行の預金と銀行の預金比率と、銀行以外の保有する現金の総額の比率から、預金の総額を取り除くと、

 

信用乗数

(1+銀行が発行する預金通貨の総額と銀行以外の民間が保有する現金通貨の総額の比率)÷(銀行が発行する預金通貨の総額と銀行以外の民間が保有する現金の総額の比率+中央銀行の預金と銀行の預金の比率+銀行預金と銀行が保有する現金の総額の比率)

 

という式になる。

以上の式により、信用乗数が低下する。

銀行以外が保有する現金の変化による影響は

信用乗数

(銀行が発行する預金通貨の総額+銀行以外の民間が保有する現金の総額)÷マネタリー・ベースの額=

(中央銀行預金÷中央銀行の預金と銀行が発行する預金通貨の総額の比率)÷マネタリー・ベース+(銀行以外の民間が保有する現金の総額÷マネタリー・ベース)=

(マネタリー・ベース-民間が保有する現金の総額)÷(中央銀行の預金と銀行預金の比率×マネタリー・ベース)+(銀行以外の民間が保有する現金の総額)÷(マネタリー・ベース)=

(1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率)-[(1-中央銀行の預金と銀行預金の比率)÷(中央銀行の預金と銀行預金の比率)]×(民間保有の現金÷マネタリー・ベース)-(1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率)×(銀行の保有する現金の総額÷マネタリー・ベース)

という式になる。

中央銀行預金と銀行の預金の比率が一定で1より小さい時、マネタリー・ベースと銀行以外の民間が保有する現金の総額の比率が増え、信用乗数は低下することになる。

ここでの中央銀行預金と預金通貨の比率が一定とは、中央銀行の預金が変化したとき、比例して、銀行の預金が変化することに注意する必要がある。

 

通貨量=

信用乗数×マネタリー・ベース=1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率×マネタリー・ベース-(1-中央銀行の預金と銀行預金の比率)×銀行以外の民間が保有する現金の総額

-(1÷中央銀行の預金と銀行預金の比率×銀行が保有する現金の総額)

 

となるので、通貨量は銀行以外の民間が保有する現金の総額の増加によって減少する。これは現金の需要が増えたことにより、民間銀行が中央銀行の預金を取り崩すことで対応すれば、中央銀行に預金と銀行預金の比率が一定活1より小さければ、預金残高がそれ以上減少するため。

つまり、マネタリー・ベースが一定で中央銀行の預金と銀行預金の比率も一定であれば、預金に対する銀行以外の民間が保有する現金の総額の比率が上昇したとき、中央銀行の預金が不足することになり預金が減少することで、通貨量は減少する。

銀行以外の民間が保有する現金の総額が増加し、現金の発行が増える時は、民間銀行から預金が引き出されると考えられる。

しかし、銀行預金が引き出されて現金化されるときは、銀行以外の民間が保有する現金の増加と銀行預金の減少が同じ量になるので、通貨量は変わらない。逆に、民間銀行が現金を預けたことによって、預金通貨が発行されたとしても、これまでの式から、銀行預金は通貨の構成に含まれていないので、銀行以外の民間が保有する現金の総額の減少に銀行預金の増加が相殺され、通貨量は変わらない。

一方、預金が引き出されるのに対して、銀行が手元の現金で足りない場合、中央銀行の預金から引き出して対応する。

以上のように、中央銀行の預金と現金は代替えされることが多いため、マネタリー・ベースは中央銀行の預金と現金を合わせたものになる。中央銀行政策金利での誘導などでマネタリー・ベースの供給が増えることで、中央銀行の預金が増えることにより、より多い現金が引き出されても耐えられるようになり、預金の発行も増やすことができると考えられる。

また、現金である日本銀行券が発行されるのは中央銀行の預金から引き出されるときである。通貨量を増やすには銀行が預金の発行を増やす必要がある。

銀行が企業に貸出する場合、現金を渡すのではなく、貸出先の預金口座の残高を増加させる。銀行に利子を払ってまで借入する企業などは、使う目的があると考えられるので、増えた残高をそのままにするとは考えられない。

例えば、現金を他の口座に振り込む、預金がどこかで引き出される可能性がある。このように通貨量は増加し、中央銀行の預金と銀行預金の比率も変化すると考えられる。

以上の説明により、信用創造とは銀行が預金を貸し出すことであるが、銀行は信用創造により通貨発行益を得ることになる。

 

通貨供給量

3. 2 通貨供給量

 

マネー・サプライとは、通貨供給量のこと。銀行の貸し出しが、総需要に影響するのは、銀行の貸し出しが投資につながるためで、銀行の貸し出しが特殊の場合、他の資金調達手段では、完全に代替えができない場合、特にこの効果は重要になると考える。

銀行の貸し出しが特殊になる場合とは、情報の非対称性がある場合で、銀行の貸し出しが情報の非対称性に対して、何らかの対処ができる場合のこと。

それ以外に考えられるのは、資産効果による総需要の増加である。資産価値の上昇により消費が増えるという資産効果がよく考えられている。

また、資産効果として、ファイナンシャル・アクセラレーターと呼ばれているものがある。これは、企業が保有する土地などの資産価値が上昇すれば、担保にする物件の価値が上昇し、情報の非対称性の状態では、担保価値の増加によって、金融取引でのリスクが軽減されることにより、金融取引が活性化されるという考えである。

資産価値は資産の収益を利子率とリスク・プレミアムによって何割か引いた現在価値として決定されると考えられる。資産価値の上昇は、資産の収益の増加が予測される場合か、リスク・プレミアムの低さによっても起こるが、利子率の低下または上昇が資産価値を上下させるので、利子率を通じた波及効果と考えられる。

リスク・プレミアムはリスクのある資産のリターンからリスクのない資産のリターンを引いた差のことである。

総需要

3.1

 

金融政策は利子率の変化を通じて需要側に影響する。マクロ経済学では総需要について家計・企業・政府・海外の四部門に分け、それぞれの重要を考える。家計の需要は、消費と住宅その他の耐久財を購入する投資に分けられる。企業の需要は、設備・在庫などの投資である。政府の需要は、公共投資などの公的な需要を財政支出とする。海外の需要は、日本国内を基準に考えると、輸出のことで、海外の国を基軸に考えると日本国の輸入は供給である。輸出から輸入を引いたものを貿易収支と呼ぶ。貿易収支は純輸出とも呼ばれる。

以上の説明から

 

総需要=消費+投資+財政支出+純輸出

 

 

という式ができる。

この式が国内総生産または名目GDPと同じになる。

銀行が政策ツールを操作することによって、利子率が変化すると考えられる。金融市場は、現在と将来の資産を使用しての購買力が取引される場で、利子率は金融取引の価格である。

 利子率の上昇は、現在利用する資産を高価にするということである。利子率が上昇すると、支出が高価になるので抑えられる。

逆に利子率が低下すると、支出が安価になり、支出が促進される。しかし、家計部門の場合は、利子率の影響より恒常所得の変化による影響が強いと考えられる。恒常所得とは長期的な平均所得のことである。

一方、投資は、利子率の変化に大きく反応する傾向がある。長期の利子率は、海外の利子率の影響も強く受ける。しかし、短期の利子率は、早く容易に表れる。金融緩和により短期利子率が低下すれば、在庫のような短期投資が増えるが、設備投資などの長期投資でもそれを前倒しにして早めに実行する動きが出てくる。

経済においては、更新投資という、工場・機械・装置などの摩耗・老朽化のために新しく設備を整えることは常に起こっている。

例えば、ある企業が数か月後に計画していた投資を前倒しで実行することや、また別の企業が予定していた投資を前倒しにするといった意思決定がおこると予測される。

利子率が下がるほど、支出が前倒しに実行され、総需要が増えれば、生産が拡大し始め、経済が軌道に乗ったと人々が革新すれば、生産に必要な機械などの資産材の需要が増え、投資が増加し、恒常所得も増加して消費も増加すると考えられる。

財政支出は、政治的プロセスを経て決められることなので、利子率とは無関係だと考えられる。輸出は海外の景気に、輸入は国内の景気に左右されるが、どちらも、為替レートの影響を受ける。円安などの外貨高になると、国内からの輸出の価格競争力が強くなり、長期的には、純輸出が増える。

為替レートは、海外・国内の利子率の差に左右される。国内の利子率が海外の利子率より低いと、相対的に高い海外での資金運用が好まれ、国内の資金運用が減る。

以上により、金融政策で国内の利子率を変化させると為替レートに影響を与えることになり、純輸出に影響する。

しかし、為替レートの変動は将来に対する要因が、大きく影響を与えるので、短期の利子率より、長期の利子率のほうに強い影響が出ると考えられる。

長期の利子率には金融政策での影響が少ないとすると、為替レートに与える影響は少ないと考えられる。政策金利とマネタリー・ベースを操作して利子率を変化させ、総需要を増やそうとしなくても、長期的に物価が変化し、市場のメカニズムにより、自然産出量になると考えられる。しかし、市場メカニズムが速く動かない場合は、総重要を増やすために金融政策は必要であると考える。しかし、名目利子率の0下限に達しても、なお、何らかの理由で総需要が不足していると、市場のメカニズムでも金融政策でも総需要を増やすことができず、日本が経験している長期間の不況になっていると考えられる。

その状態の脱却のために、総需要の増加が必要だとしてもそれ以上利子率が下げられなければ、投資も先送りにされる。

つまり、利子率のゼロ加減によって政策金利での誘導や市場での買いオペレーションまたは、マネタリー・ベースの増加による、ポートフォリオ・リバランス効果も利子率が下がる余地がない。

利子率を通じての金融政策以外に考えられるのは、銀行の貸し出しの増減による効果がある。金融政策が銀行間の貸し出しに影響を与える過程は、信用創造によるマネー・サプライへの影響と関係する。

長期利子率への波及

  1. 3 長期利子率への波及

 

二つ目に政策金利が影響を与えると考えられることは、長期での資金の貸し借りで発生する利子率への影響で、政策金利自体は、短期の利子率であるが、金利の期間構造または、イールド・カーブといわれるものに基づく効果により、中期の利子率に波及する。

例えば、政策金利で貸し借りを行う取引での期間を単位期間とし、長期の債券は期限内に確実に返されるとするとし、その際に、銀行間市場では貸した資金が必ず返されるとする。

 

(長期債券の利回り)×(1+年数期間の利回り)年数期間

               =

(政策金利で変更する銀行間市場での運用利回り)(1+現在の金利水準)(1+変更される金利水準)×・・・・・・・・

 

の式が成り立たなければ、長期債券か銀行間市場での運用のどちらか一方のメリットが大きくなるのでメリットが少ないほうは不利になり、需要がなくなってしまう。

長期債券が不利になると売れるようにこれから発行する債券の利回りを上げる。銀行間市場での資金の貸し出しが不利になると、借りた現金を債券に変えようとするが、債券を借りるために現金を借りようとすると、現金の需要が増え銀行間市場の利子率を上げることにより、銀行間市場の利回りのほうが大きくなる。

このようにイールド・カーブは異なる期間を対象にした金融資産でメリットが大きいほうを選ぶときに生じる債券の利回りの変化のこと。長期と短期の債券の利回りの差のことをターム・プレミアムと呼ぶ。

例えば、長期債券と政策金利のターム・プレミアムは、

 

長期債券での利回り-現在の政策金利での貸し出しでの利回り

 

という式になる、金融引き締めで政策金利が高くなると、長期債券の利回りでのリターンが増え、正数となり、金融緩和では、債券での投資リターンが減るので相対的に現金借り入れの利回りを大きくするので負数になる。

実際のターム・プレミアムでの不確実性を考えると、次のようになる。

政策金利はいつどのくらい変えられるのかわからないのでリターンを予測する式は、

 

(1+現在の金利水準)×(1+変更を予測した金利水準)×・・・・・・・・・

 

となる。

政策金利の不確実性のリスクを回避する傾向にある場合、債券リターンは多少低くなり、ターム・プレミアムを押し下げる要因になる。

一方、債券で長期的に運用するとき、満期償還ではなく、途中で換金するかもしれないので、その場合、売ることができる価格という不確実性が生まれる。リスクが高い場合や、リターンが少ないなど、途中で換金する確率が高くなる状態だと、債券投資より銀行間市場での借り入れでの運用が好まれ、債券は不利になった分、利回りを上乗せするが、その上乗せされた利回りを流動性プレミアムと呼び、流動性プレミアムはマネタリー・ベースや流動性の高い通貨などの資産の供給が増えると低下し、高くなった流動性プレミアムは、長期債券と政策金利のターム・プレミアムを押し上げる。

以上のように、政策金利での誘導操作は、ポートフォリオ・リバランス効果と、長期の利子率に影響を与え、長期利子率の変化は、金融機関が政策金利をどのくらいになるか予測することに依存する。

この問題は、長期的に政策金利を低くすることを約束することで長期金利を低下させ解決される。このことは、時間軸効果または、フォーワード・ガイダンスと称される。

中央銀行が、金融機関の政策金利に対しての予想を直接コントロールすることはできないと考えられるので、日本銀行のコール無担保翌日物のような超短期の政策金利では、長期的な利子率ほど不確実性が大きくなる。

中央銀行による金融政策には、公開市場操作がある。公開市場とは、制約なく誰もが自由に参加できる市場で、日本では上場株式の取引くらいしかないので、公開市場の操作は、ほとんど行われていない。

その代わりに、中央銀行は金融機関が持つ、国債などの証券を買い取ることが盛んに行われる。証券を中央銀行が買い取った場合、証券会社の供給が減少したことによって価格が上昇し、利子率が下がる効果がある。その証券の市場などの利子率が下がると、市場参加者の判断によって、他の金融資産の利子率に影響が出る。

その際、証券の買い取りに、マネタリー・ベース供給が増えるのでポートフォリオ・リバランス効果も生じる。ポートフォリオ・リバランス効果が最もあらわれるのは銀行間市場での貸し借りである。

以上の説明により金融緩和では、中央銀行政策金利を低くして誘導するか、金融資産を買い取りその市場での利子率を下げ誘導されたことによりさらに、マネテリー・ベースの供給が増えることによって、ポートフォリオ・リバランス効果を生み出し、経済全体の利子率を低下させると考えられる。

逆に、金融引き締めでは、政策金利の高めの誘導や金融資産の売り付けを行うことにより、利子率が上昇し、利子率の上昇が金融資産に影響を与え、マネタリー・ベースの供給が減ることによって、ポートフォリオ・リバランス効果も経済全体の利子率を上昇させる。

また、証券市場では、短期間のものほど金融政策の効果が大きいと考えられる。自然産出量は資本・労働量・労働市場などの供給する側の要因で少なくとも短期的には金融政策が影響を及ぼすと考えられる。

ポートフォリオ・リバランス効果

2.2 ポートフォリオ・リバランス効果

 

政策金利が影響を与えるもう一つの効果はポートフォリオ・リバランス効果で、ポートフォリオ・リバランス効果とは、マネタリー・ベースそのものまたは、マネタリー・ベースをもとに発行される銀行預金と長期国債社債・株式などの金融資産とを直接交換するときに生まれるもので、例えば、マネタリー・ベースの量が増えた時に金融機関がマネタリー・ベースのまま現金通貨で保有するか、株式・債券・土地などの金融資産に変えて保有するか考える可能性があるので、マネタリー・ベースの量が増えると金融資産に変えて保有する可能性が増えるので金融資産の重要が増え、また、リスクが低くなるので金融資産での投資リターンは低下する。

マネタリー・ベースの量が減ると金融資産の重要度が減り、マネタリー・ベースにして現金通貨で保有しようとする。金融資産の需要が減るとリスクが高くなり、その投資によるリターンは上昇する。しかし、マネタリー・ベースは現金であり物価を考慮した金融資産への交換なので、物価に関係のない金融資産である株式・債券・国債・などは影響が少ないはずだと考える。

政策ツール

2.1 政策ツール

 

これまでの過程では金融政策で物価や産出量を直接操作していたが、実際に操作することはできない。中央銀行の金融政策で産出量を自然産出量に近づける方法は、政策金利とマネタリー・ベースの二つの政策ツールを操作することである。

政策金利とは銀行間市場で取引される短期の利子率のことである。銀行間市場とは、銀行などの金融機関の間で資金の取引を行う市場のことで日本ではコール市場と呼ばれている。 

日本銀行政策金利は一夜越し(オーバーナイト)の無担保翌日物の利子率となっている。マネタリー・ベースとは銀行などの金融機関が中央銀行に開設している当座預金または準備預金といわれるものと、銀行以外の民間企業が保有する現金通貨を合わせたもので、ベース・マネーやハイパワード・マネーとも言われる。

政策ツールは二つあるが政策金利とマネタリー・ベースは別々に操作できない。なぜかというと、政策金利で操作される銀行間の決済にマネタリー・ベースを構成する中央銀行当座預金が使われているため政策金利を操作するとマネタリー・ベースも操作していることになる。

政策金利の利子率を低くすることが金融緩和になる。なぜかというと、銀行間市場での利子率を低くしたということは、金融機関同士で利息を取ることのメリットが減り、貸出しまたは資金供給は減る可能性がある、利息が低いので中央銀行からお金を借りるときにかかる利息が減り、デメリットが低くなったことから資金の需要が増える可能性がある。この金利の変化により、マネタリー・ベースは金利が低くなると中央銀行からの借り入れが増え、中央銀行に開設されている銀行や金融機関の当座預金が増えマネタリー・ベースが増える。

逆に、金利が高くなると、利息が高くつくので中央銀行からの借り入れを返すことにより当座預金が減り、マネタリー・ベースも減る。つまり、金利を引き下げ続けることはマネタリー・ベースを増加させ続けているという考えである。

政策金利には名目利子率の0下限といわれる金利は0より下に下げられないという考えがあり限界がある。政策金利なしでマネタリー・ベースを操作することはできないとする日本銀行の関係者の考えと、コントロールできるとする経済学者の考えがある。

まったくマネタリー・ベースを操作できないということは、ハイパー・インフレーションを阻止することができないことになるので、中央銀行が金融機関への貸し出しを規制する形でマネタリー・ベースの膨張を抑えることができると考えられる。